2011年9月5日月曜日

東大生はスキットで未来のゲームを表した.第2回i.schoolワークショップ⑧


ついに第2回ワークショップも今回で最後である.
前回はフレームワークにおけるアイデアチャンスのスイートスポットをみつけ,
そのスイートスポットに対して左脳思考と右脳思考を使ってアイデア化した.
最終回はそのアイデアを具体的なシーンにスキットを用いて落とし,発表することである.

DAY 10 REALIZING "SKIT PRESENTATION"
目的:最終アイデアを具体的なシーンに落とし発表
手法:スキット

近年パワポやキーノートによるプレゼンが主流になるなかで,
i.schoolではあえてこういったものに頼らず最終成果をプレゼンすることがある.
それがスキット(寸劇)だ.

スキットとは寸劇という意味だが,ここで簡単な劇みたいなものを演じることを指し,
i.schoolでは最終成果の発表にかなりよく使われる技法だ.

発表は5W1Hとスキットが入っていればいいと思うが,
以下の5つの流れを抑えるのが個人的にはベストだと思う.

①キャッチフレーズおよびアイデアタイトル
②フレームワークからどう発想したのか
③スキット背景・登場人物説明・スキット
④ビジネスモデル
⑤いままで○○だったのが,これからは△△となる.

さて,なぜi.schoolではこのスキットを使うかというと,
発表者と観客の両方に対して,
アイデアがきちんと人間中心であることを最も簡単に認識できるからである.

私たちは,「イノベーション」っていう言葉を聞くと,
すぐに「斬新であって誰も見たこともない」とイメージしてはないだろうか.

「技術中心」によるものであれば,たしかにそうなのかもしれない.
しかし私たちはなにもイノベーションというものが,
「技術中心」だけによって生まれるとは考えていない.

日本の場合はいままでは「技術中心」でイノベーションというものが,
多く起きていたのは一つ事実かもしれない.

しかし,これからの時代ではこの「技術中心」というパラダイムには,
変化が生じているのではないだろうか.

むしろイノベーションというものは,人間の新たな価値観を私たちに掘り起こさせるか,
再定義されることで起きるものであるとも考えるべきなのではないか.
つまりアイデアが人間中心でないかぎり,イノベーションというものは起こせない.

話しをスキットに戻そう.
スキットにおいて大事なのは2つのポイントをあげる.
①スキットをやっている自分たちが違和感を感じないこと
②観客の全員に理解してもらう必要はないこと

①スキットをやっている自分たちが違和感を感じないこと
私たちは頭で考えて良いと思ったアイデアと,
実際にその使う人になりきってアイデアを試したときとでは時にギャップがある.

そこでスキットで自分の体を使い,利用者になりきることで,
頭の中で考えたアイデアと人間の間でギャップはないか確認する.

おそらく演じているときに明らかに無理があるものは,
高い確率で世間にも受け入れてもらえないだろう.

②観客の全員に理解してもらう必要はないこと
スキットの利点として具体的なシーンでアイデアが演じられることで,
観客もよりイメージが湧きやすいことである.

しかし,ここで注意したいのは
「観客の全員に理解してもらう必要はない」
ということだ.

イノベーションは人間の新たな価値観を私たちに掘り起こさせるか,
再定義されるかで起きるものである.
ところが世の中にはこの変化に逆らおうとする動きが必ずある.

したがって,どんなに自分たちがいいと思っていても,
必ず批判的な意見は出るだろうし,出て当たり前だと思う.
むしろそういったボトルネックがあるときこそ,
イノベーションのチャンスだと考えるべきだ.

とはいいつつも,そこで聴いている観客全員が批判的というのも黄色信号.
やはり一部の観客にも受け入れてもらえないのでは,
自分たちの思い込みが強すぎないか少なくとも一度確認するべきである.

最後に私たちのチームにおける内容で紹介しておこう.

①キャッチフレーズおよびアイデアタイトル
あなたのゾーン(ZONE)買います!
私たちの考える未来は,ゲーマーがもつ極度集中状態(ゾーン)を
精神状態共有プラットフォームにより共有することで,
誰もがゲーマーと同じゾーンを手に入れることができるものである.

②フレームワークからどう発想したのか
「ゲーマーのもつ高い能力はまだ社会で十分に活かされていない.」
ことをエスノグラフィをフレームワークからチャンスとして着目.
その高い能力とは彼らがゲームをやっている際に発揮する
極度集中状態(ゾーン)だと考え,
これをゲームをやらない人に分けることができないか発想した.

③スキット背景・登場人物・スキット
・シーン1
ある会社員がゲーマーAのゾーンを得ることで,爆発的に仕事の効率が上がる.
・シーン2
いままで廃人とされていたゲーマーAがいまでは世界的な有名人となり,
ブローカーが彼とゾーンの契約をしよと頼み込んでいる.

④ビジネスモデル(省略)

⑤いままで○○だったのが,これからは△△となる.
いままでゲーマーAしかもっていなかったゾーンαが,
これからは,みんなもつことができる.
それによって,いままでは廃人と思われていたゲーマーAが,
これからは,あるゾーンをもつ神となる.

これも前回のワークショップと同様に賛否両論のアイデアかもしれない.
しかし今回も未来のゲームということで,
どちらかというとかなり振り切ったアイデアにした結果このようになった.

<マイ・ポイント>
・スキットではアイデアの本質からずらさない
これは前回の最終成果発表でも感じたことなのだが,
スキットが長すぎたり,ウケねらいを狙おうとしたのか
余計な部分があったりするスキットがいくつみられた.
もちろんある程度は付け加えてもいいが,
スキットのどの部分がアイデアの本質なのか,
わからなくなってしまったのでは本末転倒ではないか.
スキットはあくまでもアイデアを伝えるために手段であるので,
アイデアを最もよく伝えるシーンだけで十分良いということは忘れないでもらいたい.

・スキットからはじめない
前回も今回もいきなりスキットから始めるチームがいた.
演出の一つとしてたしかに一つの方法としてありなのかもしれない.
しかし,スキットに相当自信がないかぎり止めた方がいいと思う.
というのも,いきなりスキットが始まっても観客としては理解が追いつかないのだ.
やはりアイデアの概要,背景設定と登場人物観客があるとないとでは,
観客の理解にも差が出てくるだろうし,
なにより観客にアイデアを伝えるためにスキットをやることを考えると,
確実に伝えることができ事前説明を含んだ方がいいと感じた.


<あとがき>
さて,本記事で第2回 i.school ワークショップ「未来のゲーム」
の各場面の詳細を紹介していくシリーズ「東大生は...」はここで終了だ.
エスノグラフィフレームワークについて少しイメージは湧いていただけただろうか?

今回のエスノグラフィのフレームワークは,
前回の第1回ワークショップの未来洞察フレームワークに比べると,
構造化が完成されていたわけではいなかった.
というのもこれは完成した形で構造化できるものでないのかもしれない.

したがって,今回改めてブログに書くにあたって,
私が自分の理解が進みやすいよう自分で構造化した部分も多い.

ただし,やったことはそのまま忠実に書いであるので,
やったことに対してもっとこのように構造化した方がいいとか.
もっとこういった解釈をした方が拡張性があるとかの意見があればぜひいただきたい.

最後に全体を通してよかったことと改善点を述べて終わろうと思う.

<良かった点>
・人間中心でみることの必要性の認識
今回のエスノグラフィを通して,
人間中心という観点から改めてゲームのもつ魅力を再定義できたことだと思う.
それはゲームが比較的短時間でその人の集中力を最大限に引き出したり,
彼らの人生に学びを与える大きな影響を良い意味でもっていたりしたことだ.
今回提案したアウトプットは遠い未来過ぎるかもしれないが,
ゲーマーがもっていた能力を分けるというエッセンスは個人的に気に入っている.

そして実際に今回エスノグラフィをやってみて思ったのは,
やはりこの一連のプロセスを経験しないと一歩も前に進めないということだ.
今回通してやってみて,反省点は山ほどある.
しかし,それは実際に自分で動いて経験したからこそだろう.
一度経験をしておくだけでも,全く違うと思うので,
ぜひこのエスノグラフィは一度融通が効く学生のうちやっておきたい.

<改善点>
・自分達のバイアスから完全に抜け出すことができたのか
ワークショップを振り返ってみると,
DKFのところで果たして自分達のバイアス抜きに考えられていたかというと,
必ずしも完全に抜けて出せていなかったのではないかという感じがする.
せっかくエクストリームユーザにエスノグラフィをしているのに,
自分達がもっているバイアスを含めてしまっては台無しになりかねない.
絶えず自分達はもっているバイアスをすぐ思考に取り入れやすいことを,
自己認識した上でエスノグラフィの構造化をやるのがいいと思う.


次回の第3回は舞台を日本から韓国に移し,
ワークショップもi.schoolとKAIST大学id(Industrial Design)とのコラボレーションになる.
KAIST大学は,韓国トップの理工系大学であり,生徒も非常に優秀である.

使用するフレームワークは「DDP(Discovery Driven Prototyping)」という手法.
果たしてこのDDPとはなんなのか?どう使うのか?
そしてKAIST大学idの学生とはどのようにチーム組めたのか?

これらはまた余力があれば「東大生は...」シリーズとして,
第3回i.schoolワークショップ「高齢者の外出を支援する」を今後紹介していきたいと思う.

どうぞご期待を.




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