「世の中でイノベーションが実現できている組織・企業はどこですか?」
の質問の回答として,私の頭の中に思い浮かぶ企業の一つに任天堂がある.
近年の任天堂といえば,Ninitendo DS や Wii といった,
いままでになかった新たな操作・ジャンルを創造し,
ゲームに興味がなかった層を新たにゲーム業界に取り込んだ.
そしてこれによって縮小をたどっていたゲーム業界を再度拡大へと結び付け,
任天堂は急成長を遂げた.
私も幼いころからゲームが大好きだったのでわかるが,
DSやWiiが出る前のゲーム業界の新たな価値とは「美しい・リアル」というものに集約されていた.
「次世代機が出る=もっと美しい・リアルなゲームができる」
ユーザとして,自分も自然にそう思い込んでいたのである.
しかし,任天堂は真っ向からそれに疑問を投げかけた.
本当にこのまま「美しい・リアル」なものばかり追求していっていいのだろうか.
ユーザが本来求めているのは「娯楽」である.
それは,「美しい・リアル」だけじゃないのではないか.
さらに当時のゲーム業界はしだいに縮小へ向かっていた.
だがゲーム業界はその理由を,
「おもしろいゲームが発売されない」
「携帯の登場による,時間とお金の使い方の多様化」などをあげていた.
「仕方ない」ということで済ましていた.思考停止へ陥っていた.
しかし任天堂はそれを「仕方ない」で済ませなかった.
ユーザが求めている「娯楽」が提供できていないことが問題と認識していた.
業界の常識というものを疑い,それを乗り越えようとした.
新たな価値を生み,新たな顧客を開拓に成功した.
見事にイノベーションを起こしたのである.
これは偶然なんかではない.
任天堂が自らの業界に対する危機感を持ち,真剣に向き合っていたから実現できたのだ.
「必需品でない娯楽品を作っていることの自覚」
そう.ゲームは娯楽品なのである.必需品でない.
「任天堂”驚き”を生む方程式」(井上理著)では,このように紹介されている.
『「僕らは基本的にずっと役に立たないモノを作ってきました。
役に立たないモノに人は我慢しない.説明書も読まない.
わからなければ全部作り手のせい.
ゲームソフトも,5分触ってわからなければ『クソゲー』だと言われて終わりですから」』
娯楽品を専門とする任天堂は絶えず厳しい目にさらされてきた.
しかし,厳しいからといって現実から逃げなかった.
それは自分たちは娯楽品を専門として扱う企業であり,
今後も娯楽品を専門として扱う企業であり続けることを決めていたからだ.
こういった姿勢が任天堂を人間中心へ導いたのではないだろうか.
人間にとって「娯楽」とはなにか.なにがそれを阻害しているのか.
理解できなければ,娯楽を提供しても受け入れてもらえない.
そこで徹底的に人間の娯楽に対する見方を「理解」しようとした.
これこそイノベーションを起こすことができた理由だと思う.
世の中には,多くの「常識」がある.
しかし,それが常識であるからこそ,その常識を一度疑ってみる.
「人間」にとってどうなのか一度立ちかえって理解しようと試しみる.
いま私たちの周りの常識,再度考え直してみるべきではないか.
多くの必需品は,必需品であるがために,
コストや技術といったことにばかり重点を置かれて開発されてはいないだろうか.
そして,必需品でないものとして見られているものこそ,
大きなイノベーションを起こすチャンスがあるのではないだろうか.
ユーザのDSやWiiに対する飽き.そして格安アプリ,ソーシャルゲームの普及.
いま任天堂に対する注目は再び下がりつつあるのかもしれない.
しかし,例えこのような状況であっても,
近い将来きっと任天堂という企業はまたなにか「イノベーション」を起こしてくれる.
私はそう思い,楽しみにしている.
任天堂がイノベーションを起こすことに成功しうは,人間に立ち返ったことからきている.
i.schoolの「人間中心イノーベーション」という考え方も同じなのではないだろうか.
任天堂 “驚き”を生む方程式 [単行本] 井上 理 (著) 2009年
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